『西暦535年の大噴火』が伝えるもの


04/27

 作者は、今からおよそ1500年ほど前、世界史の中から歴史の転換点となったと思われる事件を記している。東ローマ帝国を没落させるもととなったペストは何故そこまで猛威を振るったのか。古代中国の終わりを告げた南朝の敗北は何故起こったのか。大化改新の背後にあったものは何か等々。では、いったい何が起こったのだろう。

 世界各地で調査した巨木には共通して年輪の幅が異様に狭いところがある。このことから地球規模の異常気象が起こったことが推測できる。原因は火山の噴火説が最も有力だ。南極とグリーンランドの氷を調べたところ、その年代の氷に硫酸層が含まれていたからだ。そして、両極に含まれていたことで噴火があったのが熱帯地方であり、南極のほうに多かったことで南半球ということが判明した。

 当時の中国の歴史書に、535年、西南の方向から轟音があった事が記されている。その方向で六世紀に噴火の無かったことが明らかな場所を除くとインドネシアの火山地帯となる。インドネシアのスンダ海峡には昔火山があったのだが、535年に起きた火山の大爆発により今までひとつだった島が爆発によって吹き飛びふたつの島になった。それが、スマトラ島とジャワ島だと著者は主張している。

 ちょうどここまで書き上げたとき三宅島に過去最大と言われる大噴火が起こった。その3日後、部活動をしていると硫黄の臭いがしてきた。初めは、バキュームカーだと思っていたが時間が経つにつれてどんどん臭いが強くなっていったので、友達と「この近くに火山なんかあったっけ?」などと冗談を言っていた。この事を家に帰ってから家族に話すと、「硫黄の臭いここでもしたよ」と母が言ったのでとても驚いた。かなり離れている小川と坂戸なのにおかしいなと思い首都圏ニュースを見てみた。

 「今日、昼頃東京と神奈川で空気中に含まれる二酸化硫黄の量が激増した。雄山の噴煙に含まれていた火山ガスがジェット気流に乗って東京上空に達した事が原因と見られる」と言っていたので更に驚いた。坂戸からおよそ300q離れている三宅島の噴煙の影響がここまで来るなんて普通はとても思いつく事ではないと思った。

 噴火が始まって以来、雄山の山頂では大規模な陥没が起きていると報道されてきた。それでも写真で見た陥没の様子は雄山の山頂がへこんでいる程度のものだった。ところが535年の噴火は、陸地が陥没して海になるほどのものだったのだ。当時の気象に与えた影響がいかに巨大だったかがうかがいしれよう。そして、それは過去のことではないのだ。

 アメリカのイエローストン国立公園には世界最大の休火山がある。これを含めて九つの火山が大規模な噴火をすると見られている。作者はそれらの火山噴火を「時限爆弾」と名付けているが、私はそのこと以上に原水爆の事を連想した。

 確かに、噴火から起こる災害は恐いと思う。しかし国連の常任理事国は全て核兵器を持っている。そうでない国であっても原子力発電所を持っている。もし事故が起こったら「核の冬」が起こることに加えて、目に見えない放射線が相手だからだ。

 噴火をくいとめることは出来ないかもしれない。でも核兵器を無くすことは出来る。何かが起こったとき助けあうことも出来る。阪神大震災でのボランティアのように。16年前の三宅島の噴火のとき、適切な情報が伝わったことで避難がスムーズに出来たように。事故が起きてから対策を考えるような今の社会の在り方ではいけないと思う。

  『西暦535年の大噴火』
  デイヴィッド・キーズ著(畔上 司訳)
  株式会社文藝春秋

 


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